「あんなに上手く引っ掛かってくれるとは思わなかったな」
「ああ、ありゃあ想像していた以上にぞっこんだ」
まさか目前であれだけ堂々としたディープキスを見せ付けられるとは。談話室の片隅で、ディアッカはぐったりとテーブルに突っ伏していた。
「イザークから一発喰らうのは覚悟のうえだったけど、まさかニコルにやられるとは予想外だ…」
腹をさすりながらラスティは苦笑する。
もちろんもう痛みなどない。手加減の仕方というものをあの少年はよく心得ている。爆薬処理の成績がトップだったことも考えあわせると、見かけどおりのカワイイ性格ではないことだけは確かだ。
「お前は調子に乗り過ぎなんだよ。打ち合せの時はキスする振りだけだったのに。俺、一瞬マジなのかと思ったぜ」
「う〜ん、白くて華奢な身体っていうのもそれなりには美味しそうだったけど、俺の好みとしてはもう少し長身で筋肉質の……」
思わず体を起こしたディアッカを見て、ラスティはくつくつと笑った。
「あの様子じゃニコルもまんざらではなかったみたいだし、そのうちなんとかなるかもな」
「でもなんでニコルなんだ？ いくら今までそういうことには疎かったとはいえ、イザークなら可愛い女の子がより取り見取りだろうに」
首をひねるディアッカだが、ラスティは取り合わない。
「それはまあ、好き好きってことで」
「そうかもしれないけどさ」
「で、ライバルはアスラン…か。また一悶着あるかもな」
「そのへんは程々にしてもらいたいね。あいつの八つ当りを喰らうのは、結局俺なんだから」
「だけどお前、なんだかんだいってもイザークのお守りをする役割、結構気に入ってるだろうが」
「へっ？」
「このまま愛しいイザークをニコルにくれてやっても良いのかなあ〜？」
「なっ！？…何言ってんだよ、お前。大体、あれだけアスランべったりなニコルがイザークを相手にするわけが…」
とんでもない発想に脱力感を上乗せされられ、ディアッカは再びテーブルに突っ伏してしまう。
「はいはい、希望的観測ってやつね。それにお前、このお遊びに乗ったのも本当はイザークの本音を知りたかっただけだろう」
ふいに言葉に詰まったディアッカを見て、ラスティは意味深な笑みを浮かべた。
「ついでに言わせてもらうなら、アスランもかなりイザークが気になっているようだな。絡まれるたび困ったような顔をしながら、実は秘かに喜んでいると見た」
「お…おいっ！それ本当か？」
「慌てない慌てない。なんといってもあのイザークなんだ、ライバルは多くて当たり前だろうが。ああ、それともこんな風にも考えられるな。実はイザークはアスランが本命で、でもどうしていいかわからずことあるごとにちょっかいをかけることしかできない。ニコルに手を出したのは単なる牽制だった、と」
「よくまあ…それだけ考えられるもんだ」
立て板に水のごとき説明に呆れ果てたディアッカは、大袈裟にため息を吐いた。
「そりゃあもう、男も女も経験豊かですから」
「はあっ？ひょっとして、お前もイザークを？」
「いや、だからああいう細っこいタイプは俺の好みじゃないっていっただろ」
芝居がかった流し目を送られ、身の危険を感じたディアッカは思わず跳ね起きて一歩後ずさる。
にやりと笑い立ちあがったラスティは、片目をつぶりディアッカの肩に手を置いた。
「まあ冗談はさておき、色恋沙汰で険悪なムードになるのだけは遠慮したいね」
「確かに…」
「さてっと、俺は行くよ。可愛い下級生が俺を待っているからな♪」
からりとした口調にほっとさせられるものの、煙に巻かれた気がしてどうにも釈然としない。飄々とした性格はまるで掴み所がなく、一体どこまでが本気でどこまでが冗談なのやら。
「だけどあの反応はやっぱり…本命はニコル、だよな」
もしうまくいったならば、やはり自分もお役後免になるのだろうか。そうなったら少し寂しい気がしないでもないが。
「やれやれ…あいつの口車に乗せられてどうするんだ？」
立ち去っていく後姿を一瞥してから、ディアッカは胸をそっと押さえる。
（そうさ、そんなはず…あるわけない。そんなはずは………）
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【あとがき】
……ラスティ。ＣＤドラマによるとイザーク・ディアッカサイドみたいだけど、いくらなんでもこんな性格ではないでしょう。前作同様脳内暴走による結果です、お許し下さい。
そしてディア×イザ。実は好きなんですよね、このＣＰ。でもディア×ミリも可愛くて大好きなんですよ〜。なので読むのは大歓迎なのですが自分では踏みこめない（爆）、その結果がこんな形になりました。