エール　

それはいつも僕が仕事を終えるのを見計らったように届く。月に一度、時には二度。
　ほんの２、３分ほどの映像は、青く凪いだ南の海であったり、
星空のもと、岸にうち寄せられる波頭が白く崩れ、のびていく様だったり。
何の言葉も添えられていないけれど、君の気持ちが伝わってくる。
僅かに細められた蒼い瞳が、僕を見守ってくれているような気がした。

　街角で呼び止められて振り向けば、茶色の三つ編みが大きく揺れた。
満面の笑顔とともに君は軽口を叩く。
街頭モニターでたまたま会議があることを知ったから、配達の途中に立ち寄ったのだ、と。
　いつも本音を上手く誤魔化してしまえる君だけど、僕は知ってる。
ほんの少し右の眉が上がるのは、君が嘘つきになっているしるしだ。
　泣きたい気持ちをひた隠し、僕も笑顔で応える。
側近たちに促され早足で立ち去りながら、追い掛けてくる君の視線を全身で受けとめた。

　小包みが届くのはほぼ３ヵ月おき。巡業中の君だから、差出し場所はその都度違っている。
　柔らかな色をした陶器や木製の小物、ときには珍しい観葉植物だったことも。
添えられている名刺ほどのカードには、いつも身体を気遣う言葉がのせられて。
　地球の緑を思わせる瞳の君が懐かしい。
几帳面に書かれた細い文字が、低いささやき声となって僕の耳に届いた。 　

最も連絡を頻繁に取っているのは君…。仕事がらみの情報交換。
プリベンターの堅苦しい報告書は、いつも溜息をつきたくなるものばかりだ。
それでも時折添えられている私信に、君の見つけた希望が垣間見える。
人は、世界は変わっていくのだと、僕らは信じてる。
だから歩いていける、流した血の重さと真っ直ぐに向きあいながら。

何が出来るだろう、どれだけのことが出来るだろう。
迷いは尽きなく、自分の非力さに歯噛みしながら、それでも少しずつ。
感謝の言葉に添えて、僕も皆にエールを送ろう。
僕らの思いを合わせることもちいさな１歩だと信じているから。

【あとがき】	ただカトルが愛されてるだけ〜な話のつもりで書き始めたのですが、カトル自身が
	反乱を起こしました。皆からもらいっぱなしじゃ嫌なのだそうです…。おかげで妙に
	堅苦しい話になってしまいました(爆)。さて、誰が一番カトルを愛してるでしょう？

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