君がそこにいる
僕はみんなが何を望んでいるか知っている。
ザイード・ウィナーの息子であるというだけで父と同じ能力を僕に期待している人もいれば、無能で意のままになるお飾り当主に仕立て上げようと目論む人もいる。一日も早く当主として一人前になることを願って助言をくれる人だって、いないわけじゃない。
小さいときから当主になるための勉強をしてきたけれど、僕はまだほんの子どもで父上の半分もわかっていなくって、だから、誰のどの望みにも応えられない。でもそれはそれで仕方の無いことなのだ.
僕に出来ることは限られていると、ちゃんとわかっている。ただ、常時のしかかってくるその望みが、時折すごくわずらわしくなってしまう。
そんなとき、ふと君のことを思いだす。こんな愚痴をこぼしたら、君からどんな言葉が返ってくるのだろうと。でもきっと、ううん絶対にそんな日はこない。
たとえば僕の部屋のカーテンは陽に透ける淡いグリーン。開かれた窓辺で、静かなショパンのＢＧＭと風にゆられながら軽やかに踊っている。
その傍らで異国の言葉の本を読み耽る君と、端末でたったいま落とし込んだばかりの曲のスコアを検索する僕と。
ふと視線をあげれば、整った君の横顔につい見惚れてしまう。いつもは聡い君なのに、珍しく今日は本に夢中だ。
一体何が君の興味を引くのだろうとか、あの言語をマスターするにはどのくらいかかるだろうとか。
ぼんやりとそんなことを想い、それからまた端末に向かう。
もしかしたらこの瞬間、今度は君が僕を見ているかもしれない。そんな思いがちらりと脳裏をかすめるけれど、視線はモニターに留めたままだ。君がそこにいる、ただそれだけで僕はこんなにも満ち足りた気持ちになれる。
何が辛かったかすら忘れてしまうほどに。君は何も望まない。そして僕も望まない。
君が君であるだけで、僕が僕であるだけで。
ふうわりとゆるやかに流れる「時」にただこの身をまかせて。明日になればまた戻ってくる慌しい日常。
お互い約束をするでなくスケジュールを調整しあうわけでもないのだけれど、会いたいという気持ちがあればその日はきっと訪れるから。繋ぐ心、届く想い、繰り返される秘め事。
たとえどんなに頼りなくみえても、途切れることなく続いていく二人。
たぶんずっと。だからずっと。いつまでも、いつまでも………
<あとがき>
ずっと続くとか永遠とかなんてありえない。恋にはいつか終わりがあるもの。…そんな言葉を超えた二人です。
何故って『宇宙の心』カップルですから(笑）