ボディーガード
｢どうして君がここにいるの！？｣
コロニー議会に出席するために準備された車の傍に立つヒイロの姿に僕は目を丸くした。
プルシアンブルーの涼やかな瞳が微かに細められる。｢見てのとおり、おまえの護衛だ」
「えっ？」地味なダークスーツは確かにいつものボディーガード達が身にまとっているものと変わりない。だが、着る人が違えばこうも印象が異なるものだろうか。
「…妙に似合ってるね、その服。うん、別人みたいにカッコイイ…」
「そうか？」久しぶりに会えたのに、どうしてこんな間の抜けた会話になってしまうんだろう。釈然としないまま、僕はシートに身を沈める。続いてヒイロも隣に腰をおろした。
「でも、なんでこんなことになってるの？」
「たまたま…というか臨時雇いだ。ちょうど仕事が途切れていたところだったし」
「ふうん、そう…なんだ…」（こういうことを考え付くのはラシードかな？でなければ姉さんたちの誰かかもしれない）
二人の仲はウィナー家では公然の秘密だ。お節介な人間の心当たりはいくらでもある。
「だけど…なんだかこういうのって…違和感があるよ。ボディーガードっていうのはつまり、ヒイロが僕を守るってことだよね」
「あたりまえだ」
｢それが仕事だといってしまえばそれまでなんだけど、ええっとつまり僕に何かあったときは君が代わりになるんでしょう」そこまで喋って、ようやく何が心に引っかかっていたのかに気付く。戸惑ったように小さく首を傾げたヒイロを、僕は上体を起こしてまっすぐに見つめた。
「もうこういうのはやめてほしいんだ」
少しだけ強い口調で僕は抗議する。「僕だけが守られっぱなしで代わりに君が死ぬのは絶対に厭なんだ。僕はＬ−４コロニー群代表という立場だから、こういった時にボディーガードがつくのも仕方がないってあきらめてはいるけど、でも…それでも…ヒイロ…ヒイロは…」
傍目には駄々をこねているようにしか見えないのかもしれない。勝手な理屈だといわれればそれまでだ。
でも単なるボディーガードと最愛の人とでは訳が違いすぎる。「了解した。この仕事はこれきりにする。どうやら適任とは言えないようだな」
「そうだよ。もし誰かが襲ってきたりしたら、僕はきっと自分を守ることなど忘れて君と一緒に戦ってしまうからね」くすりと笑ってから、僕はヒイロの手を取った。
「でも、どんなかたちでも会いに来てくれて嬉しい。すごく嬉しい。あの…だからその…」
「今日の仕事は会議と夕食会、そしてお前をウィナー家のビルに送り届けるまでで、そのあとはフリーだ」
｢そう、良かった♪」ほっとしてまたシートにもたれたると、今度はヒイロが僕の顔を覗きこんだ。
｢な…何？｣
「顔色が悪い。あまり眠っていないのか？」
｢え…ええっと…」どう答えるべきか迷っていると、ハンドルを握っているラシードがすかさずフォローする。
｢いつもどおり移動時間は仮眠をとって下さい、カトル様。また過労で倒れてしまいますよ」
「ラシードぉ〜、そんなこと言ったらヒイロが心配するじゃないか。それに会えたばかりで眠ってしまうなんて、そんな勿体無いことできないよ｣
思わず頬を膨らませると、僕はいきなりヒイロの腕の中に抱きこまれた。｢眠れ」
「えっ？」
｢会議場までは４０分以上ある」
「でも…」
「今眠って、夜には元気になっておけ」
｢え…!?」耳元でささやかれたその言葉に他意はない。わかっていてもつい深読みしてしまった自分が恥ずかしく、僕は慌ててヒイロの胸に顔を埋めた。
背中に置かれた指の温もりを感じながら、僕はこっそりあくびをしてから身体の力を抜く。
「ごめん…なさい…。やっぱりヒイロは僕のボディーガードだ…。僕を守って……くれ…」とろりとした眠気は甘くうっとりするほどに優しい。こんなに良い気持ちで眠れるなんて、久しぶりだ。
ありがとう、そして大好きだよって言ったつもりなんだけど、もしかしたら夢の中でなのかな？
でもきっと伝わってるよね。
目を閉じる瞬間に見えたのは、僕だけにわかるヒイロの笑顔だったから。
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＜あとがき＞
とにかく二人がラブラブいちゃいちゃしている話を書きたかったのですが…クリアしていますでしょうか？
所詮私にはこの程度…っていうか、１×４ではこれが限度？ 不毛なカップルだ(苦笑)。