指揮官
｢五飛、そのまま敵部隊を突っ切っていって。全員、五飛の位置に集結するんだ！」
あいつの指示に自然と体が動いた。俺は、無意識のうちにあいつを指揮官と認めていた。
『強い』という言葉が、これほど不似合いなやつはいない…。そんな第一印象だった、カトル・ラバーバ・ウィナーという少年を。トレーズの手の中で躍らされた奴らの中でも、一際あいつは目立っていた。女のような顔立ち、細い体、細い腕。素手で戦えば、真っ先にやられるタイプ…そう思った。
だが、俺達が宇宙に上がろうとしたとき、あいつは自らシャトルの援護をし、そして最後には、自爆という手段をとってまでも俺達を守った。
思えば、あの時から、俺はあいつを認めていたのかもしれない。誰よりも状況を判断するのに長けており、皆をまとめる力を持っているのだと。
そして、それこそがあいつを支える強さなのだ…俺はそう学んだ。その上、ホワイト・ファング軍を相手にしたときの戦いぶりは、俺の目を見張らせるのに十分だった。
あのガンダムは、近接戦闘に適したタイプだと言うことは、誰の目にも明らかなのだが、あいつは不利な遠距離からの攻撃にも、天性の勘で上手く立ち回り、いつのまにか敵の懐に飛び込んで仕留めてしまう。
あのショーテルを投げつける時の、コントロールとタイミングの良さときたら。
鮮やかとしか言いようがないほどあいつは強かった。俺達は友人などというものにはなれなかったのかもしれない。だが、互いに認め合っていることも事実だ。仲間として行動していたあの時、確かに俺は、あいつを好ましいと思っていた。
平和が訪れた今、あいつの夢見ていた理想が少しは理解できるような気がする。俺自身も変わってきているのだろう。
時折、あいつの姿をＴＶで見かける。サリィ・ポオが、雑誌や新聞を見せにくることもある。
その都度、俺達を率いて勇敢に戦ったあの少年の事を考える。そして、違う方法で始めたあいつの新しい戦いのことを。
そうだ、今俺達は別々の道を進む。それぞれの場所で、それぞれの戦いを選んで。
あとがき
五飛くん、喋ってくれるかなとおそるおそる一人称で書いてみたのですが、以外とスムーズでした。あの二人、接点少ないから(苦笑）。