キス・きす・ＫＩＳＳ −みんな君を愛してる ＰＡＲＴ２−
時はＡＣ１９５年、場所はピースミリオン。戦いの合間に、ひょっとしてこんなことも…？な、Ｇチームの物語。
｢７点？ くそー、今回頑張ったな、ヒイロ。俺が４、トロワが１０で、すげえ、五飛１３点？ ということは、合計で…」
デュオは、カードの山と紙切れ、それにペンを片手にうなっている。
｢正義は常に勝つ｣
｢…ま、そうなるな。五飛が一位、次がトロワでおれとヒイロがビリ争いってか？ ええっとだから…」
｢計算するまでもない。２点差でおまえが勝ってる｣
｢そうなのか？ トロワ。…ということは」
目を大きく見開いたデュオは、やがて口元を緩めた。
｢ヒイロさん、罰ゲーム決定〜！｣
まるで挑発するかのように、デュオは大げさに手をひらひらと振って見せた。
｢男に二言はないよなあ。さあ、やっていただきましょうか？」
｢何をすればいいんだ？｣
ヒイロはそっけなく言葉を返す。
｢あ、これこれ。さっきメカニックの連中に罰ゲーム考えてもらったんだ。メモが三つ。どれにする、ヒイロ｣
｢どれでも同じだ、さっさとよこせ｣
無造作にひとつ引き抜いていくヒイロの様子を、デュオはニヤニヤと笑いながら観察していた。。
額に青筋が立ったのを、もちろん見逃す筈もない。
｢なんだ、これは…。一体なんの冗談だ？」
「どれどれ？」
興味津々といった表情で、デュオは覗きこんだ。
だが、メモはヒイロの掌の中で、即座に握りつぶされてしまう。
｢本当にこれをするのか？｣
｢罰ゲームだからな。なあ、なんて書いてあったんだ？」
あからさまに不機嫌な顔つきで、ヒイロは立ち上がった。
｢任務を遂行してくる｣
堅く丸められた紙をトロワに投げてよこすと、ヒイロは早足で出ていった。
｢あらら、すばやいですねえ♪ こりゃ、思っていたより病は重いな」
はしゃぐデュオを、五飛はじろりと睨み付ける。
｢一体なんだ？」
トロワは丁寧にしわを伸ばすとメモを見せた。
見る見るうちに、五飛の眉間に深い縦皺がよっていく。
｢……どういうことだ？」
｢俺がトロワに協力してもらって仕組んだの。わざとヒイロの知りそうもないゲーム、選んでさ。そうでもしなけりゃ、あいつ絶対素直にならないんだから｣
｢茶番もいいところだな」
縦皺を寄せたまま、五飛は吐き捨てるように言葉を返した。
｢ま、上手くいくように祈っときましょ｣
｢案外のせられたふりをしているだけかもしれないな」
トロワが無表情でポツリとつぶやいたがデュオは動じない。
「それならそれでいいんじゃないの？ いい加減、はっきりさせてもらわないと、見てるこっちが苛々する｣
｢女のようにお節介だな｣
｢性分だよ。いい加減覚えてくれ、五飛」
デュオは、嬉しそうに肩を竦めるという、奇妙なしぐさをして笑って見せた。
その頃、カトルは自室で膨大な量の紙を細く切るという作業にいそしんでいた。
ハワードのバースデーパーティーをするという名目で、カラフルな紙の輪をつないでいくという古典的な室内装飾の製作をデュオに押し付けられ、なんの疑問も持たずに黙々と一人でやっているあたり、カトルの馬鹿がつくほどの人の良さがにじんでいる。
１時間も続けているとさすがに飽きたのか、カトルは大きく伸びをしてお茶を飲もうと立ち上がった。
そのとたん、ノックもなしに、ヒイロが突然部屋へ入ってくる。
｢………どうしたの？ ヒイロ｣
焦燥したような姿に、カトルは目を丸くしてヒイロを見つめる。
無言でカトルの手首をつかみ引き寄せると、ヒイロはいきなりカトルの唇に自分のそれを押しつけた。時間にして０．５秒といったところだろうか。
瞬時に固まってしまったカトルは、ヒイロの唇が離れるや否や慌てて腕を振りほどき、ぺたりと床に座り込んだ。
「……！？！」
何が起こったのやらまだ把握できていないといった面持ちで、カトルは目をしばたかせている。
「僕…ひょっとして……キス…されたの？」
耳たぶまで真っ赤になりながら、そっとカトルはヒイロの様子をうかがった。
ヒイロは目を逸らし、その場に立ち竦んでいる。
「どういうこと？ ヒイロ。なぜこんなことしたの？」
次第にカトルの口調が強くなってくる。徐々に怒りが込み上げてきているようだった。
一方、ヒイロは明らかにうろたえている。泣きそうな顔をしているといっても過言ではないかもしれない。
冷静に見れば、一目でヒイロの様子がおかしいということに気付きそうなものだが、驚きのあまり気が動転しているカトルには、それが見えていない。
「初めてだった…のに…。まるでこんな事故みたいな…｣
声が掠れ、徐々に涙声になっていく。
そのとき、ばたばたと騒がしい足音が聞こえ…。
「おーい、か・と・るちゃーん！」
賑やかな声と共に、デュオが部屋へ飛び込んできた。「あれ？ あれれれれ？」
見るからに気まずい雰囲気に、デュオは首をかしげる。
｢おい、ヒイロ。おまえさん、ひょっとして乱暴でもしたの？」
当てが外れたといわんばかりのデュオの表情を見て、カトルの顔色がさっと変わった。
「どういうこと？ どうやらデュオが何か仕組んだみたいだね｣
｢お…おい、カトル？ カトル〜？ 何だか怒ってない？｣
「あたりまえだろう。ヒイロにあんなことさせたのは君なの？｣
｢あんなことって…あ、そうか。無事任務完了ってわけだな｣
ぽんっと手を叩くと、デュオはカトルの肩に手をかけた。
「いやあ、ちょっとした罰ゲームでさ、おまえらこれでちっとは素直に……」
言い終わらないうちに、パアンと大きな音が鳴った。驚きのあまり、デュオは頬を押さえたまま唖然としてカトルを見つめる。
「罰ゲームってなんなの？ ゲームでキスなんかするわけ？ ヒイロもヒイロだよ。そんなこと平気でできる人だったなんて…見損なった！！｣
肩を震わせ、カトルは大きな碧い瞳から、涙をぽろぽろとこぼし始めた。
｢おい、カトル…？ どうしてそんなに…｣
苦虫を噛み潰したような顔のヒイロと泣きじゃくるカトルとの間で、デュオはどうしていいかわからずおろおろするばかりだ。
「どうやらお前のの思惑通りにはいかなかったみたいだな｣
遅れてやってきたトロワが、デュオに助け舟を出す。
「おっ！ いいタイミング〜！！ トロワ〜、こいつらどうにかしてくれよ」
トロワは任せておけというように微笑んだ。
｢それだけ怒っているということは…」
宥めるようにカトルの肩を抱き、優しく尋ねる。
「カトルは罰ゲームでキスされたのが嫌なんだろう？｣
｢……ん…」
一瞬迷ったのち、こくりと首を縦に振ったカトルを、トロワはぐいっとヒイロの前に押し出した。
｢そういうわけだ、ヒイロ。今度はおまえの意思でしてやれ｣
｢そうそう、大体おまえ等、お互いの気持ちわかって…んぐっ！」
トロワに強引に口をふさがれたデュオは、引きずられるようにして部屋を出ていく。
｢あとは二人の問題だ」
冷たくトロワに言い放たれて、さすがのデュオも口を閉じ、すごすごとトロワに従った。
「あの…その…」
カトルはおそるおそる顔を上げた。
無言、無表情のまま、ヒイロはカトルのほうへ歩き出す。
「わっ！！！」
ヒイロの顔が息がかかるほどの距離に近づいたとたん、カトルはぎゅっと目を閉じた。
「…………」
耳元で何か囁かれたカトルは目を見開いて、惚けたようにヒイロの顔を見つめる。
「それ…ほんと？」
ヒイロの顔に、微笑らしき（？）ものが浮かぶ。
「ああ、ずっと…だ。だから…」
カトルはヒイロの頬にそっと手を伸ばした。
「罰ゲームにかこつけて、あんなことしたわけ？」
拗ねて頬を膨らませるカトルの唇を、ヒイロは指でちょいと押すと、ふわりとカトルの体を抱きしめる。
「もう一度していいか？」
「ばか…｣
カトルはぎゅっとヒイロの肩にしがみついて、大きく頷いた。
「やれやれ、これでめでたく三人揃って失恋決定ってわけか｣
湿っぽい気分を吹き飛ばそうとするかのように、デュオが大きな声を出した。
トロワは視線を手元の本に向けたまま。
五飛は、ただ黙って瞑想にふけっている。
「はいはい、いいんだよ、誤魔化したってさ。でもとっくにばればれなんだから仕方ないじゃん？ カトルはあんなに可愛いんだしさあ」
｢可愛いなんて簡単な言葉で片付けるな」
五飛にじろりとにらまれ、デュオはたじたじとなる。
｢トロワもご苦労さん、辛かっただろ、あんな役目｣
気を取りなおしてそう声をかけると、トロワは唇の端で少し笑った。
｢それより気付いていたか？ あのゲーム、本当はおまえがビリだったんだ」
「ええ〜っ！？ …てことは…あいつ知ってて…」
デュオはがっくり肩を落とすと、大きくため息を吐いた。
｢まったく、あのヒイロがねえ……」
そのあとは言葉にならない。
「カトルはあのヒイロにそこまでさせる存在なんだ。いい加減観念しろ、デュオ」
そう諭すトロワと、そのとおりだといわんばかりの表情をした五飛を、デュオは狐につままれたような面持ちで、ただ茫然と眺めていた……。
あとがき
最近、オールキャラを書きたいという願望がありまして、そのせいか五人全部出してしまいました。
尚、以前書いた「みんな君を愛してる」とはなんの関係もありません、念の為。
シリアス編のアイデアもあったのですが、妙に暗く、長くなりそうなので却下。
ウチのヒイロは甲斐性無しだから…。