RIDDLE

　

「僕は好きですよ」
「はあ〜っ？」
｢イザークのことを好きだって言ったんです」
「だからどうしてそういう話になるんだ？」
　まるで楽しいことを思い付いた子どものようなニコルの笑顔に、イザークの苛立ちは３割増しになった。
「だって、たった今あなたが聞いたんですよ。俺なんかにどうしてかまうのか、って。あなたなんか、なんて思ってません。イザークはいい人です」
「貴様…俺を馬鹿にしてるのか？」
「僕のほうこそ聞きたいです。どうしてそういう話になるんですか？」

　

　そもそもイザークの不機嫌の原因は例によってアスラン・ザラだ。クルーゼ隊訓練の模擬戦において僅差で負けるという７度目の屈辱。
　あからさまにとげとげとした雰囲気をロッカー室で撒き散らすイザークを相手にするのは幼馴染みのディアッカくらいだが、まだ戻っていない。
　触らぬ神に祟りなしというつもりか、こんなとき他の隊員は、この綺麗で傲慢な少年を遠巻きにするだけで決して近づかず、ひたすら着替えに専念していた。
　ただ一人、ニコル・アマルフィを除いて。

　

「お前はアスランにでもじゃれついてたらいいんだ」
　ふいに顔を曇らせたニコルは、傷ついたようにうつむく。ならばかまわなければいいのにと思考はまた逆戻りだ。
（何を聞いている、こいつは。大体なんでこの俺が自分を『俺なんか』などと貶めなければならないっ！）
　どうあってもアスランには勝てない悔しさのあまり、つい零れてしまったのかもしれないという思いがちらりと脳裏を掠めたが、もちろんそんな感情など認められるものではなかった。
「貴方に話しかけると迷惑なんですか？」
「そんなことをいってるわけじゃない」
「じゃあ、どうしてそんなに邪険にするんです?イザークは僕のことが嫌いなんですか？」
　畳み掛けるような言葉とともにまっすぐ視線を向けられ、日頃臆病者だのなんだのと散々毒舌を吐き散らかすイザークの唇が、突然固まってしまう。
「そっ…そういう次元の問題じゃないだろう。大体、俺がいい人だっていうのは一体なんなんだ」
「あれ？知らなかったんですか？」
　とぼけたように目を見張り、またニコルは笑みを浮かべる。掴みどころのないその様子に、イザークは次第に落ち付かなくなっていった。
「世間一般に言ういい人っていうのとはちょっと違うかもしれないけれど、僕は好きです」

　

　ときおりこの少年は謎かけのような言葉で人の思考を凍りつかせる。だが、腹立たしいことに、いつも耳を貸さないという対処方法しか思いつけない。
　すべてを無視したままゆっくりと着替えを終えおもむろに振り返れば、ニコルはとうに部屋を出ていた。
（あいつは何を言いたい？一体俺にどうしろというんだ？？）
　せり上がってくるたくさんの疑問符に胸が詰まりそうになり、イザークは乱暴に息を吐いた。考えまいと思うのについ考えてしまい、無視しようとすればするほど気にかかってしまう。

「僕は好きですよ」

がらりとした部屋の中央、置き去りにされたその言葉だけがいつまでもまとわりついて離れない。

　

　

　

＜あとがき＞
もしかしてニコイザ？？おいおい…。そのうちニコルサイドのほうも書いてみたいです
そしてこのあと戻ってきたディアッカの運命は如何に？――なんてね。
ラフなお話ですみません。管理人だけがわかっているような話なのでちょっと補足。(爆)
…単なる言い訳というか解説というか。毎度のことといえばそうなのですが
今回特にくどいので、そういうのがお嫌いな方はトップにお戻りください

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この話を読んで「……？」と思われた方、そうです、そのとおりです。
イザークが『俺なんか』などという言葉を使うはずありません。ニコルの聞き間違いです（きっぱり）。
ただね、心情的には多分そうだったと思うんですよ。その裏返しがあのプライドの高さなのだと。
そしてニコルには、無意識のうちにそういうのを読み取ってしまうようなところがあるんじゃないのかな。
だからイザークはニコルが苦手なんです、そしてつい臆病者呼ばわりしてしまう。
でも、そんなふうに掬い上げてもらえるところに、イザークはどこかほっとしているというか…そんな感じ？