ＺＥＲＯ
「これでいい、完成だ。機体の防御力はオリジナルを凌ぎ、パワーも同等。ヒートショーテルは彼の運動能力には最適な武器だろう。そうだな、名称は砂漠をイメージして…」
Ｓ・Ａ・Ｎ・Ｄ・Ｒ・Ｏ・Ｃ・Ｋ
エンターキーがかつんと硬質な音をたてる。
Ｈ教授と名乗るその男は一瞬不敵な笑みを浮かべるかと思うとすぐに真顔に戻り、同じ建物の何処かにいるであろう少年に思いを馳せた。
「もしかしたら…こちらの機体を必要とする時が来るかもしれないが、今は――そうだな、今はこれでいい」
ＺＥＲＯと書かれたファイル名にちらりと視線を投げかけ、電源を切る作業に取り掛かる。
「ＯＺの力がこれ以上脹れ上がれば、全てのコロニーにとって脅威になりうる。これはコロニーの報復であると同時に警告でもあるのだ。４月７日、５つの流星が地球に落ちる、それが全ての始まりとなるだろう…」
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「未確認のガンダムがコロニーを破壊すると宣戦布告してきた」
五人の科学者の間に緊張が走る。心当たりがあるとしたらあれしかない。はたして、緑の瞳をした少年の報告は、その懸念を裏付けるものだった。
「あんたが残した図面か」
キノコのような髪の奥の鋭い眼差しが、一人の男を射抜く。
「資源衛星の規模にもよるが、予測される破壊力はあの図面によるものだな」
あんたと呼びかけられたその男は、細いひげをかすかに揺らすと肩を竦めた。
「我々五人の考えたガンダムのオリジナルを作ったのだ。ちと危険な匂いがするのう」
機械の手が立てる乾いた音が薄暗い部屋に低く響きわたる。
「あの破壊性能は素人が見ても必要ない。それを装備させているのだな」
「無知か、それとも暴走か」
「我々でさえ躊躇したことをやっている。本当に沈むぞ。コロニーの一つや二つは」
次々と投げかけられる言葉に、Ｈと名乗る男は眉間に皺を寄せ、奥歯を強くかみ締めた。
「やはりあれは消去しておくべきだったのかもしれん」
「だがおまえさんは必要だと判断したのだろう」
気落ちしたＨの肩に手をかけ、短い白衣の男はさらに言い添える。
「ならば、そのパイロットを信じてみてはどうかな？」
「ゼロシステムと彼の力がうまく結びつけば、個々での戦い方しか知らない彼らをまとめ、その力を何倍にも引き出せるはずだった。結果的には全く異なるタイプの機体を与えたのだが、いつか機会があるかもしれないとゼロシステムのユニットだけ完成させておいたのが…仇になったのかもしれん」
まさかあの少年が。
ありえないはずだったと考えてみるものの、心の何処かで妙に納得させられてしまう。
「システムのせいばかりではあるまい。純粋であるがゆえの暴走、予測できる範疇の事態だ」
「そうか…そうだな」
「結論を出すにはまだ早すぎる」
口を挟んだのはずっと無言を守ってきたひときわ大きな体躯の男だった。
「これがターニングポイントになる可能性も充分ありえるのだから」
「ならばわしらがお膳立てをしてやるべきだな」
「さて、どうやってあいつらを焚き付けるか。老後の暇つぶしにはちょうどいい…」
４つの不敵な笑いが奇妙な不協和音をかもし出す。やがてＨもその唇をゆっくりと笑みの形に歪めた。
だからこそ、あの五人に機体を託した。つまりはそういうことなのだと……。