ウィナー家の昼下がり久しぶりの休日。ゆっくり朝寝坊して、朝昼兼用の食事をとって。
コロニーでこんな言い方っておかしいかもしれないけれど、今日もとっても良い天気。
窓を開けてピアノを弾いてみる。上手く指が動かないのがもどかしい.。でも、久しぶりの開放感だ。
そういえば、最近ちっともみんなと連絡を取ってない。たまには電話でもして見ようかな？でも日曜日の昼下がりなんて、それぞれ用事があるような気もするし…。
デュオはおそらくデートだろう。トロワは公演中の可能性が高いよね。プリベンターは日曜日なんて関係ないって言ってたし…。最近また学校に通い出したっていうヒイロは？
うーん…どうしよう？
あれこれ考えていると、どこからか僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
｢カトル〜！？ どこ〜？」
あのしり上がりの高い声は…？！
長女のマチルダ姉さんだ！！マチルダ姉さんと僕は親子くらい歳が離れている。
僕が産まれる前にお嫁に行ったそうだ。
なかなか子供ができなくて、子供好きだった姉さんは、僕が赤ん坊の頃しょっちゅう子守りをしに里帰りしていたらしい。
僕が物心ついたときには義兄さんの仕事の関係で地球に住んでたから、顔を合わせるようになったのはつい最近のことだけれど。
一人娘が1４才でスキップして大学の寮に入ってからというもの、暇を持て余しているらしく、しょっちゅう顔を出す。その目的は…僕の縁談。
17だからまだ早いって何度言っても、最近は結婚平均年齢が下がっているとかで、来るたびに お見合い写真（古い風習らしいんだけど、『由緒ある家柄の者はそれが普通』なんだそうだ）を抱えてくる。やれやれ、逃げたほうがいいかもしれない。
あの声の方向からすると窓から抜け出せば…。
「あら、みぃ〜つけた！ 捜したのよ、カトル♪」
ちょっとハスキーな明るい声が僕を引きとめた。
29番目のジェシカ姉さん！ なぜここに？姉妹というのはどこか通じているものがあるんだろうか？
マチルダ姉さんとジェシカ姉さんのほかに、先日結婚したばかりのさやか姉さん（２３番目だ）、それにイリア姉さんまで里帰りしてきてる。
全くの偶然だそうだけど、４人もリビングにそろうと何というか、その…。
賑やかなのは楽しい。でも、みんな僕「で」遊び始めるから困るんだ。僕「と」遊ぶんじゃなくてさ。
はあ…。今に始まった事じゃないんだっけ…。
｢ねえ、カトル。こちらのお嬢さんなんてどうかしら。地球の方なんだけど、家柄も申し分ないし。ちょっときつい感じはするけれど、大人しいだけの女の子なんてカトルには向かないと思うの」
興味はないけど無視するわけにもいかなくて、渋々マチルダ姉さんの手元を覗きこむ。
うわ〜っ！？！ なんの冗談だよ、これ！
「カトルと同じプラチナブロンド。瞳は綺麗なアイスブルー。きっとお人形さんみたいに可愛い子供が生まれるわよ。素敵じゃない、このドロシーさんって」
彼女も絶対僕「で」遊んでる！ 結婚する気なんてぜんぜんないくせにさ。
まるで子供みたいにぷうっと頬を膨らませてしまった僕を見て、すかさずジェシカ姉さんのツッコミがはいる。
｢カトルはお見合いなんてしないわよねえ。あんなに素敵な恋人がいるんですもの｣
ええっ！？！ 恋人って一体誰のことだろう？
うろたえていると、イリア姉さんが僕の肩をつかんで脅すように囁いた。
｢なあにそれ.。初めて聞くわよ、カトル。どこのお嬢さんなの？ 白状なさい。私に隠し事なんて許さないんだから」
いくら凄まれても、本当に知らないんだから、答えようがないよ。
そんな僕をニヤニヤしながら眺めていたさやか姉さんが、かわりに答える。
｢あ、私知ってる〜。すっごく可愛い、みつあみの子！ 二人でサーカスへ入っていくのを見かけたことあるわ。もちろんデートよね♪」
……それって、多分この間、デュオと二人でトロワを訪ねたときのことだと思う。
でも、デュオって最近ずいぶん背が伸びてたくましくなってきてるし（僕と違って…悔しいけどさ）女の子と見間違えるなんて、さやか姉さん、視力大丈夫かなあ？
「あら、あの神秘的な東洋系の子じゃなかったの？ 超美形の！ すごく親密そうだったじゃない？ 私はてっきりあの子だと…」
ジェシカ姉さんの言葉に、なんとなく展開が読めてきた。最近五飛とは全然会っていないから、多分それってヒイロの事だろう。
これ以上おもちゃにされるのはゴメンだから、何か口実を作って退散しようとしたら、リビングに執事がやってきた。
｢カトル様、御友人がお見えです。執務室のほうで良いとおっしゃられたのですが、今日は日曜日ですし、こちらの客間にお通しいたしました」
執事の言葉を聞いた途端、ジェシカ姉さんとさやか姉さんの瞳がらんらんと輝いたのは見なくても見当がつく。
「で、誰？」
「プリベンターの方で、張五飛様とおっしゃられまして…」
五飛〜！？ 最悪のタイミングじゃないかっ！！
なんだかんだと理由をつけて、姉さんたち、絶対覗きに来るに決まっているんだから。
ドアに向かった僕の耳に、二人の見事なユニゾンが飛び込んだ。
「ねえ、かとるちゃ〜ん？ もちろん、お茶は私達が持っていくわよお〜！」
あああっ！！ もうどうなっても知らないからっ！！
いつ二人が覗きに来るのかと落ち着かないまま客間に向かう。
でも、そんな気分は五飛の顔を見た途端吹っ飛んだ。
会う機会が一番少ないのは彼だから、こんな日は本当に貴重なんだ。
「五飛！！ 久しぶりだね」
｢先日頼まれてた例の調査が終わったから、報告書を届けついでに訪れたんだが…。そういえば今日は日曜だったな、せっかくの休みに悪かった」
サリｲさんの影響だろうか、五飛は会うたびに雰囲気が柔らかくなってきている。
「仕事中だとゆっくり話もできないじゃないか。かえって日曜日で良かったよ。あ、でもどうだったの？調査の結果は…」
｢おまえの杞憂に過ぎなかったようだ。確かにそういう動きもひところ有ったようだがな。ものの道理のわからない奴ばかりじゃない、といったところだろう」
「そう、よかった。でもずいぶん早かったね」
｢そりゃあ、おまえのたっての頼みだからな…」
とんとん！とノックの音。来たっ！ 僕の心拍数が跳ね上がる。
しかも最悪のタイミングじゃないか…。
ぜえ〜ったぃ、ぜったい、今の五飛のセリフ、聞かれてる！ で、また余計な想像を膨らませてるんだ…。
｢か・と・る・ちゃあ〜ん！？お茶持ってきたわよ〜う」
「ど…どうぞぉ〜…」
なんて声、出すんだろう。……あ〜あ、僕の声まで裏返っちゃったよ。
五飛は怪訝な目つきで僕を見ている。
｢姉さん…なんだ。あの、その…」
「ああ、２９人いるとかいう」
…デュオのおしゃべりっ！！ あれだけ内緒にしててっていってたのに。
ああ、どうか二人とも、おかしなこと言い出しませんように…。
｢いつもウチのカトルが御世話になってます〜！」
「なんだか無理を申しましたようで、すみません。今日は夕飯召し上がっていってくださいねえ♪」
二人がかりで紅茶とケーキを並べながら、揃ってこびたような声を出す。
さすがの五飛も、面喰ったようだ。
｢あ…あの、はじめまして…」
僕の姉さんだと思うとさすがの彼もいつものように一喝するわけにはいかないんだろう。それとも押しの強さにのまれてるんだろうか？
二人ともいかにも興味津々、といった顔してるもんなあ、
「ああ、そうだ。これを…」
視線から逃れるように、五飛はごそごそと上着のポケットを探る。
「あずかりものだ」
小さな箱が差し出された。
｢だれ…？」
「見ればわかる｣
そういえば、小さなカードがはさまっている。
どきどきしながらそれを開くと、書きなぐったような豪快な文字が目に飛び込んだ。「ＨＡＰＰＹ ＢＩＲＴＨＤＡＹ！ カトル♪ ｆｒｏｍ デュオ＆トロワ」
そして箱の中には、銀色の綺麗なボールペン…。
そうか、今日は僕の誕生日なんだ。すっかり忘れてた！
ひょとして、それで姉さんたちが？
慌ててふりかえるとパタンと扉のしまる音がして、二人の姿はもう見えなかった。
｢それから…」
五飛が差し出したのは、このビルから一番近い本屋の包装紙に包まれた薄い本。
これひょっとして…五飛が僕のために？
｢あ…の…？」
｢知ってて知らんふりもできんだろうが…」
ぼそぼそと消え入りそうな声で答えた五飛の頬は、心なしか赤らんでいるようにみえた。
「ありがと。とっても嬉しいよ｣
｢５時過ぎのシャトルで次の出張先に飛ぶから飯は食えない。すまないと伝えてくれ｣
「そう…仕方がないね。それにしてもずいぶん忙しそうだ」
「早くプリベンターなぞ必要ない世界になればいいんだがな」
｢うん…」
きっとそれはみんな共通の願いだろう。
ヒイロもデュオもトロワも、そしてきっと姉さんたちだってそう思ってるに違いない。
帰り支度をはじめた五飛をぼんやりと眺めながら、僕は心の中がとっても暖かくなっていくのを感じていた。正面玄関まで五飛を見送ると、僕はリビングに戻った。
テーブルの真中に、ちょこんと大きな灰色のテディベアが座っている。
｢なに？ それ」
｢さっき届いたわよ。首のところにカードがついてる｣
そう言ったのは、さやか姉さん。
テディベアといえば…まさかヒイロ？
………案の定そのまさか、だった。僕の誕生日はリリーナさんと近い。これってもしかして彼女とお揃いだったり…はしないだろうなあ？
何を考えているのやら。ヒイロって未だによくわからないや…。
考え込んでしまった僕は、イリア姉さん特製のローストビーフの匂いで我に返った。
｢さあ、カトル。行きましょ！ 今日は私達が腕をふるったのよ」
マチルダ姉さんの言葉に背中を押され、僕はうきうきした気分で隣の食堂に向かった。
ローストビーフ、パンプキンスープ、シーフードと海草のサラダ、それにシフォンケーキ。僕の好きなものばかりが並んでる。
なんだか子供に返ったみたいにはしゃぎかけた僕の耳に、ジェシカ姉さんがそっと囁いた。
｢で、どの子が本命なの？」
だ〜か〜ら〜！！
僕「で」遊ぶのは勘弁してほしいんだってばっ！！！なんの意味もないまま…これでおしまい。
＜あとがき＞
まるっきり意味なし。ただ、お姉さま方にからかわれるカトルを書きたかっただけ（爆）。
それにしても、勝手にカトルを４月生まれにしちゃったんだけど本当は（本当って？）いつなんでしょうか。
サン○イズさんの公式回答によりますと、Ｇーパイロットの誕生日の設定はない、ということらしいのですが（同い年なのは確かだそうです。某アニメ雑誌の記事より…）
私的には、みずがめ座か射手座希望。