<AM4:14>

気がつくとベッドの中だった。
窓の外はまだ暗く、室内には仄かなテーブルランプの明りが揺れていた。

｢カトル、目が覚めたのか？｣
ヒイロが心配そうに僕の顔を覗きこんでいる。
｢変な夢、見てた……」
僕がそう言うと、ヒイロは優しく微笑み、｢もう少し眠れ｣と髪を撫でてくれた。

……あれ？
どうしてヒイロがここにいるんだろう。それに、やけに彼が優しい。
｢これも夢なのかな……？」
｢カトル？｣
そうか、きっとこれも夢なんだ。ヒイロに会いたいという願望が、夢になって現れたんだ。
なーんだ、全部夢だったんだ。
思わずクスクスと笑ってしまった僕を、ヒイロが怪訝そうに見つめてる。……夢でもヒイロに会えたんだから、もう少し甘えてしまおうかな。

｢あのね、変な夢を見たんだ。ヒイロが二人いるんだよ｣
僕が笑いながらそう言うと、ヒイロはなんだか困ったような表情をして、僕に額にそっと掌を当てた。
現実と同じように、彼の手は少し冷たかった。
……リアルな夢だ。

｢カトル、聞いてくれ｣
「なぁに？」
｢それは夢じゃない」
｢……？」
夢じゃない……夢じゃ、ない？
「ちなみにこれも夢じゃない」
別の方から声がして、ギョッとして見るとベッドの反対側にもう一人のヒイロが……
｢それから、言いにくいんだが…」
｢二人じゃなくて、三人なんだ」

そして三人目のヒイロが姿を現した時、僕の目の前は再び真っ暗になった。

　

　

　

<AM6:14>

目が覚めると、三人のヒイロの姿はなかった。
混乱した僕は、まず、デュオに通信を入れた。今はジャンク屋をやってる彼とは、良く連絡を取り合っていて、ときには相談に乗ってもらったりしているのだ。

『どうしたんだよ、こんな朝早く』
画面の向こうのデュオは、まだ眠そうだった。
―――そう言えば、時間を見る余裕もなかった。まだ、こんな時間だったんだ。
｢ごめん、僕、混乱してて」
僕の様子から、何事かあったのを察してくれたらしく、デュオは真面目な顔つきになった。
『どうした？何かあったのか？』
心配そうに聞いてくるデュオに、僕は夜中の出来事を全て話した。
「実は……」

　

……そして話し終わると、デュオはなんとも言えぬ―――狐につままれたような―――表情になっていた。
『……それはやっぱり夢じゃねえの？』
「そう思う？」
『そりゃー…本当だったら怖いだろ。ヒイロが三人、だぜ？』
「……そうだよねぇ。やっぱり夢だよね」
『そうそう。夢だよ、夢。……もしくは、」
「もしくは？　何？」
聞き返すと、画面の向こうでデュオはにやりと笑った。
『ヒイロ恋しさのあまり、幻覚を視たとか』

「！」
途端に、かあっと頬が熱くなる。
『ヒイロが三人もいて喜ぶのはカトルくらいだもんな！』
「デュオっ」
明らかに僕をからかって楽しんでいるデュオを、僕は恨めしげに睨んでやった。あの告白以来、何回こうやって冷やかされたことか。……その分だけ、僕もヒイロのことではデュオにたくさん泣き付いてるんだけど。
『悪ィ悪ィ、そんなに…………』

突然、笑っていたデュオの表情がぴたりと固まった。
｢デュオ？　どうしたの？」
心なしか顔が青ざめているような―――ま、まさか…

画面の向こう側で、がたたんっ！と激しい音を立てて椅子から立ちあがると、
『今行くから待ってろよッ！！』
と叫んでデュオは通信を切った。

僕は恐る恐る背後を振り返る。…そこには予想通り、三人のヒイロが並んで立っていた。

｢デュオの奴は相変わらずだな｣
と、懐かしそうに目を細めるヒイロ。
｢あいつは前から気に入らなかった。俺のカトルにベタベタして」
と、舌打ちするヒイロ。
｢………」
そして、何も言わずただ無表情のままのヒイロ。

僕は生まれて初めて、一日に三回も気を失った。

＞＞３