ＴＨＥ ＲＥＶＥＲＳＥ
・・・・・ ２×４versiｏｎ ・・・・・
今日は久しぶりにカトルと待ち合わせ。いわゆるデートってやつだ。
ここのところ俺はもうあいつに夢中で…。
そのために会っているんじゃないと何度自分に言聞かせても、涌きあがる衝動を押さえるのは至難の業だ。
瞳を縁取る金の睫や柔らかな耳たぶ、指先の爪の形までもが俺を誘っているような気がしてならない。
こうして待っている間も、ずっとあの時のことばかり考えてしまう。
薄暗がりに浮かぶ滑らかな白い肌、ピンクの唇、可愛いあえぎ声！
ああっ！ 駄目だ。このままじゃカトルに嫌われちまう。最近の俺、一体どうしちまったんだろう。
これがあの有名な思春期の性衝動ってやつ？ まるでケダモノだよ…。そりゃあ、あいつだっていやなわけじゃないと思う。
一度だって拒んだことないもんな。だけどこんなこと考えているって知られたら！？！
そのうえ二十日ぶり………。俺、いつまで耐えられるだろう。それでも会いたくて会いたくて。
約束の時間よりも十五分も早く待ち合わせの公園に着いてしまった。
あいつはいつも五分前には来るから、あと十分で会えるはず。
今は昼下がりだし人目もあるから、とりあえずはなんとかなると思うんだけど。
大きくため息を吐いた途端、カトルの声が、俺の背中をノックした。「どうしたの、デュオ。ため息なんか吐いて」
振り返ると、大きな碧い瞳が不安げに揺れている。
「それにいつも時間通りに来る君が、こんなに早いなんて変だよ。ひょっとして何か用事でも？ それを言うために早く来たとか…」
「まさかまさか。このデュオ・マックスウェル、デートの約束を破るようなことは決していたしません」
おどけたような俺の台詞に、カトルはまるで花が咲いたようにふわりと笑った。
俺ってこんなにも愛されているんだなあと思うと、ますます自分に嫌気がさしてくる。
そんな俺の気持ちも知らず、カトルは無邪気に言葉を続けた。
「あのさ、悪いけど昼食まだなんだ。いつものサンドイッチ屋さん、付き合ってくれる？」
「ＯＫ、サニーデイだな。テイクアウトでいいか？」
おっとまずかったかな、今のは。ホテルで食べようなんて、下心みえみえかもしれない。
だけどカトルはそんなことは全く気にしていない様子で、無邪気に「テイクアウト！」って叫ぶ。
「ここにくる途中でいい場所見付けたんだ。木の枝振りが地球っぽくって、そこで食べたいな、なんて」
「……ああ」
そう、そういうことね。
やれやれ、まるで俺、いたいけなお子さまを狙っている中年のオヤジみたいだ。
「そのあと少し散歩してからお茶しよう。今回もいつものホテルなんだろう？
あそこのティーラウンジのオレンジタルト、絶品だって姉さんが話してたんだ。紅茶もおいしいって」
「お…おい、それじゃ食事代よりお茶代の方が高くつくぞ」
カトルが一緒だから半端なところには泊まれない。当然、料金もそれなりになるわけで。
「気にしないで。お茶くらい僕がおごるよ。で、そのあと少しホテルで休んで遅い目の夕食っていうのはどう？
この近くにウィナー家系列のいいチャイニーズレストランが出来たんだ」
俺の心搏数がどんっと跳ね上がる。夕食の前に一回戦ＯＫってかあ〜？
「いいな、それ。グッドアイデア。俺スプリングロール食いたい」
「フカヒレのいいのが手に入ったって料理長が言ってたから楽しみだな」
あれれ？ 今日はなんだかおかしい。すっかりカトルのペースにのせられてしまってる。
こいつ、こんな性格していたっけ？
違和感が拭えないまま、俺達はサニーデイへと向かった。
まあ、たまにはこんな日もあるだろう……。
オレンジタルトの味は申し分なく、俺達は大満足でホテルの部屋へとなだれ込んだ。
「ふぅ〜。おいしかったね。でもちょっと大きかった、当分お腹すきそうにないよ」
「最初あの甘さには驚いたけど、でもそれが妙に美味いんだよな」
ホテルのティーラウンジだからお上品なのが出てくると思いきや、以外にもボリュームたっぷり。
ノンシュガーの紅茶をすすりながら食べると、カトルの姉さんの言う通り絶品だった。
「んじゃ…ちょっと、腹ごなしに軽い運動でもしてみますか？」
うん、誘い言葉としては自然な流れだ。ちらりとカトルの顔を盗み見ると、頬を少し赤らめて俯いてしまった。
「…ん…そう…だね」
おっと。急にしおらしくなっちまったな。積極的なのも新鮮でいいけれど、やっぱりカトルはこうでなくちゃ。
「じゃ、俺、先にシャワー浴びるけどおまえはどうする？ 一緒に入るか？」
「……あとでいい」
ちぇっ！ バスルーム作戦失敗、か。それにしても今度はやけに神妙な顔つきになっている。何かあったんだろうか？
そそくさとシャワーをすますと、今度は慌てたようにカトルがバスルームへ入っていく。
やっぱり様子がおかしい。
「なんだかなあ……」
いくら勘がいいとはいえ、まさか読まれてるわけじゃないよな。
でも、でも！！ようやくカトルと……☆△！
かちゃりとドアの開く音がして、白いバスローブに身を包んだカトルがでてきた。
うっすらと紅潮した頬がなんとなくこわばっているように見える。
何かある、絶対に何かが……。
思わず身構えた途端、視線がぶつかった。
「デュオ。頼みがあるんだ」
いきなりのまっすぐな言葉に、うろたえることしかできない。
ずっと感じていた違和感は、やっぱり何かを隠してたからなんだ。
「ど…どうしたんだよ、難しい顔をして」
平気なふりをしようとしても、声は上ずってしまう。
「あのさ、ずうっと前から考えてたんだけど…僕は女の子じゃないでしょう？」
「そりゃあ、あたりまえだ。俺はカトルがカトルだから好きなんであって、女の代わりじゃないぜ」
「でもさ、あの、その……」
おずおずと唇を開いてはまた結び、なかなか言葉が紡ぎだされず…。
ああっ！イライラする。
何だかいやな予感がひしひしとしてきた。
まさかもうしたくない、とか？？ さっさと言っちまえ！！
そして。
次の瞬間、予想もできなかった言葉に、俺の頭の中は真っ白になってしまったのだ。
２に続く