ＭＹ ＢＥＳＴ ＦＲＩＥＮＤ −ｐａｒｔ２−
(ノーマルバージョン）
懐かしいような、胸が締めつけられるような。
そんな夢を見ている最中、雨音に目が覚めた。
顔の上に乗っかっている鬱陶しい三つ編みを払いのけると、目に映るのは見慣れない天井。
こんな早朝に雨…？まさか、地球じゃあるまいし。
昨夜の記憶が途中で途切れているのに気がついた俺は、慌てて起きあがって自分の服装を確かめる。
大丈夫だ、ちゃんと着てる…。寝てるのもベッドじゃなくてソファーだし。
ほっと一息つくと、押し殺したような低い笑い声が聞こえてきた。
「なんだあ？ボウズ。貞操の心配でもしてるのか？｣
振り向けば、４０すぎくらいの褐色の肌をしたおっさんが部屋の隅から人懐っこそうな笑顔を向けている。
どこで会ったっけ、と二日酔いのまわらない頭であれこれ考えていたら音量ぎりぎりまで下げたテレビの音が耳に飛びこんできた。
｢気象コントロールセンターのプログラムミスだとさ。もうじきやむよ」
それで予定外の雨、か…。
ぼんやりあたりを見まわすと、仕事仲間が３人、床でごろ寝をしているのが目に入る。
｢お前さんが一番チビだから、特別待遇でその場所を提供したんだぞ。ありがたく思え｣
ああ、と大儀そうに応えれば、紫の煙がふわっとこちらに流れてきた。
｢煙草だなんて、またずいぶんレトロなもの吸ってんのな」
｢祭りの後にはぴったりだろうが｣
そっか。微かに記憶がある。このおっさんは、俺達がバカ騒ぎした小さなパブのマスターだ。確か名前は…。
「カト…レア、いや、カトリーヌか？｣
いきなり女性名をいわれて、俺は目を見張る。
「なんだよ、それ」
｢寝言で呼んでいただろ？さっきからずうっとさ｣
そんな名前に聞き覚えは…と首をひねっているうちにはたと思いついた。
カトル･･そうカトルだ。思い出したのは、おそらく雨音のせい…。
何もかもが馬鹿でかかった地球、破壊と殺戮を繰り返した日々、ガンダムの操縦席に座った時の高揚感と畏れ…。さまざまな記憶が鮮やかによみがえる。
そして、あいつと共に過ごした時間……。
みんなが起き出す前に帰ると言うと、おっさんは呆れ顔で俺を見た。
｢なんでそんなに急ぐんだ？まだ降ってんのに。もう少しまってりゃ朝飯くらい食わしてやるぜ」
「いーよ、祭りの後のけだるさは、自分一人で楽しむのがおつなのさ」
「けっ！ガキのくせに生意気ばかり言いやがる」
満面に笑みを浮かべられ、俺の頬も自然と緩む。
「そいじゃ、ガキらしく素直になるよ。ありがと、世話になって」
わざと神妙な顔をつくって礼を言うと、「そーいうのも似合わねえな。まあいいさ。また店にこいよ」と、頭を軽く小突かれた。
んじゃ、と俺は手を振って、煙るような雨の中を一人歩きはじめる。
行きずりだけど暖かい。そういうのって悪くないよな。お互い嫌なトコ、見ないで済むしさ。
昨夜はおもいっきり楽しんだ。小説家志望だった仲間の初掲載を祝って、とことん騒いで馬鹿話でもりあがって…。
平和になったもんだと、俺の足取りは自然と軽くなる。
こんな天気に外を出歩く物好きは俺ぐらいらしい。全く人気が無いな、と辺りを見回せば、新聞売りのじいさんが淋しそうにつったっている。
一部もらって傘代わりにでもするかとコインを手渡すと、投げるように渡された新聞の一面にカトルの顔を見つけた。
思わず広げて覗きこむ。雨粒が一つ、また一つとカトルの頬に染みを作っていった。
「へえ〜。このコロニーに来てんのかよ。なになに、地球圏統一国家会議？ そうか、そういや今度はＬー２の番だっけ」
さっさと帰ってカトルにメールでも送ろうと思っていたのだけれど、予定変更。会いに行こう。
あいつは同じ場所にこだわる性質だから、以前泊まったのと同じホテルにいるに違いない。
「そういえば長いこと会ってないなあ。あいつ、どうしてるかな」
俺みたいにお気楽に過ごすって訳にはいかない立場。
そう思うと途端に気になってくる…。
人の上に立つって事がどれだけ大変か、多少は想像がつく。俺ならとても耐えられないだろう。
ひょっとして、ストレス溜めてぐったりなんて…してないだろうか？
「あ〜あ、俺って心配性！ あいつに限って、そんなことあるわけねえじゃん。弱っちい見かけと違って、たくましいのなんの」
そうつぶやきながらも、次第に速足になる。
｢俺なんかが行ってもなんの助けにもならないかもしれないけどさ、心配くらいする権利くらいあるよな。だって俺達…」
芯の髄までとことんかかわっちまって、お互いの嫌なところも見ちまったけど、それでも…。
｢俺達、友達だろう？なあ、カトル」
立ち止まって空を見上げると、雲の切れ間から光がさし始めた。作り物にしては芸が細かい。
やがて雨がやみ、青空が瞬く間に広がっていく。
｢そういえばあいつ、寝起きの機嫌、むちゃくちゃ悪かったっけ。朝早くに会いに行って、いきなり怒鳴られたりしたらどうしよう…」
苦笑いを浮かべ、朝日の眩しさに目を細めながら俺は駆け出した……。
＜あとがき＞
作品上では全く描かれませんでしたが、彼らは常に極限状態にいたのですから、それぞれ色々な事があったと思うんです。自分の嫌な部分をさらけ出してしまったり、相手の嫌な所を見てしまったり。
それでも友達。だからこそ友達。
カップリングも好きだけど、何があっても壊れない(意味深？）デュオとカトルの友情というのもこだわりだったり。
とにかく二人一緒にいるのが良いんです♪
なお、Ｐａｒｔ１は裏ページに。設定も何もかもが違うお話ですので、２と関連は全くありません。。