次第に激しくなる嵐は容赦なく木の葉を叩きつけ、敷地のあちこちに水溜まりを作っては小さな川となり流れていく。
　激しい雨音が壁のように二人を包み込み、部屋には重苦しい空気が淀んでいた。

「何故あんな挑発に乗った？　あの女を助長させるだけだとわかっていただろうに」

　容赦ないヒイロの言葉に、カトルは肩を震わせうつむいた。

「忘れるな。お前はガンダムのパイロットだ」

　ようやく落ち着いてきたカトルに対し揺さ振りをかけてくる。
　それが彼女個人の気紛れなのかそれともロームフェラの策略なのか区別がつかない以上、なおのこと目立つ行動は控えなければならない。

「大丈夫だよ、ヒイロ。僕はこの手が血塗れになることを承知の上であれに乗ることを選んだんだ。そう、ちゃんとわかってる」

　言葉にすることで落ち着いてきたのか、震えていた声が少しずつ明瞭になってくる。

「でも…流される血はできるだけ少ないほうがいい。僕はこの地球と宇宙、どちらも守りたいんだ。
　なるべく戦わないですむよう、これ以上戦争で人が死ぬことのないように」

　ヒイロは肯定も否定もしないまま、ただカトルの隣に腰を下ろした。

「僕は…これからどうするべきなんだろう」

　力なく呟く姿にヒイロは、「その時がくればわかる」と言い放つ。

「お前は何故この国に来ようと思った？」

　ゆっくりと顔を上げたカトルの瞳に微かな光がやどった。
　小さく首肯くとヒイロはさらに続ける。

「誰にだって矛盾はある。無理に目を逸らせる必要はないが、自分を責めても仕方がない。
　その時々において自分が正しいと思う方向で戦えばいい」

　そう、感情のまま。
　思わず口をついて出かけた言葉がヒイロの心を激しく揺さ振る。

　かつてそう語った男と、そう語りかけた相手。そう、あの時は……。
　胸にせりあがってくる記憶と感情を瞬時に圧し殺し、ヒイロは端末を起動させた。

「今日得られた新たな情報はこれだ」

　ロームフェラの最新のターゲットは完全平和主義に賛同している南欧のとある小国。
　モビルドールにより首都は一日で壊滅状態、政府要人の殆どが攻撃により行方不明となっている。

「この戦闘のあと、ヨーロッパの各部隊が次第に北へと進行を始めた。次のターゲットはトレーズ派の本拠地、ルクセンブルクである可能性が高い。
　そうでなければおそらく…」
「ここ、サンク王国だと、君は思うんだね」

　この国を守ることが完全平和主義を守ることにつながるのだとカトルは言う。
　だがそれが何の役に立つのかヒイロにはまだ理解出来ないでいた。

　しばらくモニター上の地図を眺めていたカトルは、はっとして顔を上げた。

「もしかしたらここ、彼女の故国じゃないのかな？　ほら、レミングの話をしていた…」

　彼女の容姿は、色素が薄い北欧系の少女たちとは明らかに異なっている。

「彼女の御両親は、近いうちにこうなると知っていて娘をサンク王国の学園に預けたのかもしれないね。
　戦争は起こるべくして起こるのだと思うことで、彼女は心のバランスを保とうとしたんだろうか」

「それをいうならあの女も似たようなものだろう」
「…え？」

「深入りするな。命取りになるぞ」



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