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カトルの自室の隣にしつらえてあるその部屋は、ピアノとバイオリン、その他幾種類かの楽器とその楽譜が置かれていて、北側の壁面全体が書架になっていたる
ヒイロはピアノの傍に置かれたソファに腰掛けてカトルの演奏に聞き入っていた。
この部屋は、只のカトルに戻れる唯一の場所なのだとかつてカトルは話していた。あまり利用できないのが寂しい、とも…。
静かで優しいそのメロディーは、所々テンポが乱れたりするのも愛敬だといわんばかりにヒイロの心に染み込んでいく。
曲が終わりていねいにふたを閉めたカトルは、おもむろにヒイロに近づき隣に腰をおろした。
うつむいたまま、幾度も口を開きかけては閉じることを繰り返し、ようやくカトルは決心したように言葉を紡ぐ。
「僕達は少し、急ぎ過ぎてたかもしれないね」
はにかんだように微笑んで、カトルは顔を上げた。
「何もかも自分達だけでやろうとして気負ってた。今からだってやり直すことは出来るから、君さえ良ければもう少しここにいてくれないかな」
返事をする代わりにヒイロはカトルの頤にそっと手を掛けた。
額に唇を寄せ、それから頬、そして…。
唇が合わさったとき、カトルは僅かに身じろぎしたように思えた…が、それだけだった。入り込んできたヒイロの舌を、カトルはすんなり受け入れる。
ぎこちなく応えあい、息が詰まるほどに何度も求めつづけて一体どれくらい時間がたったのだろう。
「カトル、お前を抱きたい…」
思わず口をついて出たヒイロの言葉に、カトルは耳まで真っ赤に染めて小さく頷いた。
ベッドにもぐりこみ、それから身につけていたものを全て脱ぎ捨てる。
なめらかな温もりの心地よさに、二人は我を忘れて抱き合った。
あわされた素肌は、また新たな熱を生む。
おずおずとのばされたヒイロの指は、やがて余すところなくカトルの体を這い回る。
単に技術のひとつとして覚えていただけのそれに、カトルの体が少しずつ反応し、やがて吐息とともに甘い声が吐き出される。初めての感覚に身を震わせ、背中にすがり付く細い指…。
カトルのすべてを愛しくてたまらなく感じている自分に気が付いたとき、ヒイロは、あの男が教えたがっていた体を重ねることの本当の意味をようやく理解したように思えた。
あの少女と同じ色の肌、髪、そして瞳。
だが、同じ性の彼は、丸い腰も柔らかな胸も持っていない。いくぶん華奢で、滑らかな白い肌をしているという他には、自分とまったく変わりないのだ。
だが、この肉体の興奮はどうだろう。
何がこんなに自分を煽っているのか、その答えはカトルのなかにある…。
胸に腰に首筋にと鬱血が残るほどに激しく口付け、その痕を優しく舌でなぞると、ヒイロはカトルの誰にも触れさせたことがないであろうその部分に、そっと指を搦めた。
きつく目を閉じてカトルはヒイロの肩にしがみついてくる。
「大丈夫か？」
ヒイロの問い掛けに、カトルは無言で何度も頷く。
だが、ヒイロは自分の覚えているそのままで良いのかと不安になった。あの男のモノと比べて、カトルのはあまりにも脆いように思える。
迷った挙げ句にヒイロはカトルのそれから手を離し、そっと口に含んだ。優しく触れるか触れないかのように舌を這わすと、カトルは一瞬体を強ばらせ、小さな悲鳴とともにあっけなく精を迸らせる。
初めての快楽の余韻にたゆたいぐったりと横たわるカトルの姿を目のあたりにして、ヒイロは眠っていた野獣が再び目覚め始めていることに気付いた。
はち切れんばかりになっているヒイロ自身は、カトルを貫こうとより一層硬度を増している。
征服欲に突き動かされて、ヒイロはカトルの後の入り口に指を滑り込ませた。
触れた瞬間、ぴくんとカトルの体が跳ねる。
ヒイロの脳裏に、あの時の記憶が駆け抜けていったが、溢れだす欲情を止めることはできない。
左腕でカトルの体を押さえ付けるように抱き、緊張を解すように幾度も口付ける。
飲み込まれた指が締め付けられるその感覚に、ヒイロは今すぐにでもカトルのなかに入りたい衝動に駆られた。だが、擦れたカトルの呼び声を耳にして、なんとかそれを押さえ込む。
「ヒイ…ロ…。何だか変な…感じが…する…」
自分の太腿に押しつけられたカトルの下半身に、再び熱が集まってきているのにヒイロは気付く。
「怖くないか？ 大丈夫なのか？」
「う…ん…たぶ…ん…」
敏感な箇所を探り当てようとゆっくりと指を動かすと、あられもない声がカトルの唇から吐き出され、ヒイロの最後の理性の糸がふつりと切れた。
……ヒイロが押し入った瞬間、カトルが何か叫んだようだったが、興奮しきっていたヒイロの耳には届かない。 譫言のようにカトルの名を呼び続けながら、ヒイロは快楽の頂点へと上り詰めていった…。