まず額、それから頬に軽く唇が触れてくる。
それから耳の後ろを指でくすぐってみたり。
やっぱりデュオは意地悪だ。せっかく覚悟を決めたのに、フェイントばっかりで。
思わず目を開けたらデュオと視線がぶつかった。
すかさず睨み付けるとデュオはぷっと吹き出す。
「なんだよ、カトル。そんなに早くしてほしいのか？」
なんでっ！どうしてっ！デュオのこの余裕は一体どこから来るんだろう。
「それじゃ、ご期待にお応えして♪」
ふわりと合わさってくる唇。何度もついばむようにして。
まさかこれが大人のキスってわけじゃないよね。
ちょっぴり余裕でふわふわ夢心地でいたら、いきなり歯列を割って舌が入りこんできた。
舌先で僕のそれを優しくつつくと、今度はそおっと上唇をなぞって…。
ええっと、これが俗に言うディープキス…だよね。
急に強ばってしまったのに気づいたのか、デュオは唇を離した。
「なんだよ、まだ始まりも始まりだっていうのに…」
「だって、だって…」
「もうちょっとな、
そしたらお前の番！」
……もうちょっとって、これ以上何をする気なんだろう。
「だって俺、もうずうっと以前からこうしてみたくてたまらなかったんだ。お前が好きで好きで、触れたくて…指で触れたら今度はさ…」
うっとりしたような顔でそう言うと、もう一度唇を重ねてくる。
大人のキス…というものをしっかり覚えておかないと僕の番のとき困るな、なんて必死で意識をそこに集中していると、いつの間にかパジャマのボタンがすっかりはだけられていた。
やがて神聖な儀式のように、デュオの指が、頬が、唇が、僕の喉元を通って薄い胸板に降りてくる。
くすぐったいような、それでいて離れて欲しくないような感覚が徐々に僕の体を支配し始めた。
「綺麗だ…すっげえ綺麗だよ、カトル」
デュオはそれだけ言うと、今度は僕の胸の小さな突起を口に含んだ。
優しく下でつつかれると、背筋がぞくぞくして下半身に熱が集まってくるのがわかる。
そしてその中心に甘い痺れのような疼きが生まれ始めていた。
「…え☆！？」
ちょっと…デュオの手が、手がああああっ！
「どこ…触ってるのっ？」
思わず彼の手首を押さえつける。
「どうしてさ。こんなになってるのに、触れられるの嫌なのか?」
キュッとズボンごしにその部分を握りこまれ、僕は慌てて腰を引いた。
「あのさ、カトル。自分でしたことくらいあるだろう? だったら今は俺に任せてみないか?」
ないことはない…けれど。
自分で自分にするのだって気恥かしさがあるのに、デュオの手でなんてそんなの恥ずかしすぎるじゃないか!
眼尻に涙を溜めた僕は、またすっかりパニック状態。
思わず置き上がった僕の体をデュオはふわりと抱きとめる。
「ごめん、ちょっと夢中になり過ぎた。あんまり嬉しくてつい…。抱きしめたい、キスしたい、触れたいって思ったら、もう抑えがきかなくなっちまうんだ。
何だか獣みたいで自分が嫌になることもあるんだけど、それだけお前が魅力的で……」
そりゃあ…僕だって男だからその気持ちわからなくもないけれど。
デュオは躊躇ったり迷ったりはしないんだろうか。僕が同性だ、ということに。
「ねえ、デュオってさ、もともとそういう世界の人…だったの？」
気が付いたらそんな言葉を口にしていた。
「ええっと…そう聞かれると何とも答えようがない…なあ」
居心地悪そうにデュオは僕の体を離す。
どうやら僕は言っちゃいけないことを言ってしまったらしい。
いくらデュオが手慣れているからって、やっぱりそれは禁句だよね。
軽蔑されるかもしれない。こんな奴だったのかって見下げられて。
やっと両想いになれたのにいきなりふられてしまったら…どうしよう。
「じゃあおまえは？」
いきなり聞き返されて僕は慌てた。
「え？ 僕?」
「そう、お前は一体どうなんだ？ 初恋はどっちだった？」
初恋って……よくわからないけれど、う〜ん……。
「小さい頃、パーティーで会ったお人形さんみたいに可愛い女の子にドキドキしちゃって、どうしても話しかけられなかった覚えなら…ある」
「そうだろう、俺も同じ。今だってそうだ。美人なおねーさんとか見るとときめくけどさ、それってお前といる時とは全然違うんだ。
もっとこう、なんていうのかな、その……」
そっと伸ばされたデュオの腕が、また僕の体を包み込む。
「どう言えばいいのかわからないけど、とにかくお前が好きなんだ。お前が最高、お前以外に考えられない。
こういうのって男だとか女だとか関係ないと思わないか?」
真摯な視線がまっすぐに僕を捉える。
暖かいその言葉に一体どれだけの想いが込められているのだろう。
僕はつくづく自分の軽率さが恥ずかしくなってしまった。
「そう、そうだよね。僕だって同じなのに。ほんとうにごめん…ごめんな…さい。あの、ゆるしてもらえる…？」
いくら謝っても謝り足りない。あんなに酷いこと言ったのにこんな風に行ってもらえるなんて。
すっかりしょげてしまった僕の背中を、デュオはポンポンと軽く叩いた。
「いいんだって。カトルのそういう妙に堅苦しいところも気に入ってるんだから」
「ありがと…」
思わずそう答えてしまったけれど、でもこれって誉められてるんだろうか?
「で、どうする？ 今度はお前の番だけど？」
そう、そうだった。今度は僕がデュオに…。
でも、何か違う気がする。
「あのさ、僕も良くわからないけれど、デュオが大好きでデュオと離れたくなくて、それで…」
「それで？」
夏の空を思わせるコバルトブルーの瞳に見つめられると、僕はもうデュオに甘えることしか出来なくて。
また肩にギュッとしがみついてしまった僕の耳元で、デュオが甘く囁く。
「じゃ、続きをしていいんだな」？」
「うん、でも…」
「でも、なんだ？」
「僕ももっとデュオに触れたいんだ。だから…」
僕は自分の格好を見回した。
こんな風に中途半端に脱がされるのは余計恥ずかしい。
しごとばでたおれてそもまま…だから汗だってかいてるし、デュオはきっちり服を着たままだし。
「ＯＫ、じゃ、シャワー浴びよう。そこがバスルームだよな？」
指さした先は言うとおりの場所で…。どうしてこんなに察しがいいんだろう。
「また倒れたらいけないから、俺が付き添ってやろうか?」
「さっきも言っただろう、僕は重病人じゃないってば」
これ以上からかわれるのはごめんだからと、さっさと僕はバスルームへ逃げ込んだ。
「あ、おい、カトル〜。くそっ！ 鍵なんかかけてやがんの」
ぶつぶつ言ってるのが聞こえたけど、恥ずかしいものは恥ずかしいんだってば。
そりゃあ、その後のことを考えたらもっと恥ずかしいことになるんだろうけど…。
とりあえず今はごめんなさいっ！
ちゃんと覚悟を決めるから、もう少しだけ待っていて。
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