【お読みになる前に…】
これは、サークルあゆぢの亜夜亜夜様が１９９９年１１月１４日、Ｑ受オンリーイベントで、コピー誌として発行された「１１１４」という小説を再録したものです。
彼女とはここ６年あまり、友人・いちファン・そして合同誌のパートナーとしてお付き合いしてきました。
通販で入手して以来、私はずっとこのお話が大好きで、もう何度も何度も読み返しています。
そして先日、こんな名作がこのまま埋もれてしまうのはもったいない、もっとたくさんの方の目に触れても良いんじゃないかと思い至り、ぜひこちらで発表させていただきたいと亜夜亜夜様にお願いして掲載の許可をいただきました。
少し長いので、６つに分けてます。どうぞごゆっくりお楽しみください。（なお、原文で使用されているハートマークはＰＣの都合上、省略もしくは♪マークで代用させていただきました。改行もＨＰ・横書きという構成上、読みやすくするため、多少変えてあります。ご了承ください）
尚、彼女あてのご意見・ご感想などは管理人にメールしてくだされば責任を持って転送致します。
それでは…どうぞ矢印にそってお進みください。（上記の１をクリックしても飛べます）。
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１１１４
・・・・・・・・・・・・・・ これは、とある１１月１４日のメルヘンです ・・・・・・・・・・・・・・
byあやあよる
<ＡＭ１：０４>
ベッドに入ったまま寝付けなくて、何気なくサイドテーブルのデジタル時計を見ると、なんとも中途半端な時間だった。
はぁ。思わず溜息が出てしまう。思えば仕事に追われる毎日で、ここ最近はこんな時間にベッドに入った事なかったっけ。眠れないのはそのせいかもしれない。忙しい日々のなか、たまに仕事が早く終わったりしてポカンと時間が空くと、正直嬉しいよりも先に戸惑ってしまう。不意に訪れる空白の時間は、『淋しい』という気持ちを思い出してしまうから。
脳裏に浮かぶ様々な顔。逢いたくても逢えない人――父上や母様。それから一緒に戦った懐かしい顔。
そして――今一番逢いたい人の顔……。「ヒイロ」
呟いてしまってから、自分の女々しさにまた溜息が出る。
一年近く、連絡もない彼。最後に会ったのは、マリーメイア軍との戦いが終わった時だ。共に戦っていた時はあんなに近くに感じていた彼。けれど戦争が終わればふらりとどこかに姿を消してしまう。こちらから追いかけなきゃつかまらない人だって判ってはいるけれど、『ウィナー家の当主』という立場では、なかなか会いに行くことも出来ず―…
だからあの時、不謹慎かもしれないけれど、久しぶりに彼に逢えて凄く嬉しかった。
彼に引き合せてくれたのがまた戦争だったというのは、とても悲しいことだけど――その戦いも終わり、大切な戦友だったサンドロックに別れを告げ、世界も僕自身も新しい１歩を踏み出したあの日…多分、僕は少し感傷的になっていたんだと思う。
…いや、それを通り越して、少々ハイになっていたのかも…。とにかくあの日僕は。……これを思い出すと未だに恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になってしまうのだけど、ずっと会いたかった彼を目の前にした僕は。
あろうことか、仲間たちの目の前で、彼に告白してしまったのである。
「初めて会ったときから、ずっとヒイロが好きだったんだ」
…その後のことはあんまり思い出したくない。なんだか大受けしてるデュオの横で五飛なんか口をあんぐりと開けてるし。マグアナックの皆はパニック状態だし、トロワは必死でその場をフォローしようとして空回りしてるし。――今考えると、リリーナさんがあそこにいなかったのは、せめてもの幸いだったと思う。
そしてヒイロは……、無表情のまま固まってた。
どうやら彼もかなり動揺してたみたいなんだけど、結局、なにも返事を貰えないまま、彼はまた何処かへ行ってしまった。そしてそのまま音信不通―――ってことは、やっぱり僕は玉砕したということになるんだろうな。
……ああ、いけない。また落ち込んできた。気分転換にヴァイオリンでも弾こうかな。
僕はベッドを抜け出し、戸棚からヴァイオリンを用意した。幸いこの部屋は防音なので、眠れない夜はたいていこうやって過ごす。
弾き始めたのは、アニ―ローリー。好きな曲の一つだ。けれど指が曲を奏で始めても、思考はヒイロへと戻ってしまう。……今頃何処でどうしているのかなぁ。彼のことだから、戦争が終わってからも平和を維持するために影で色々活動してるんだろうなと思う。決して表舞台には出てこなくても。
彼ならきっとそういう生き方を選ぶだろう。
今でもこっそりリリーナさんを警護してる、なんて、いかにも有り得そうな話だ。考えると…胸がちくりと痛むけど、あの二人は本当にお似合いだし。リリーナさんがヒイロを好きなのは周知の事実だし、……やっぱりヒイロも彼女の事が好きなのかな？
例え望みのない想いだとしても、はっきり答えを訊けばよかった。そうしたらもう少しすっきりしたのかもしれない。
「僕のことどう思っているの」って、ヒイロに訊きたい。
……本音は、ただ彼に会いたいだけかもしれないけど―――会いたいよ、ヒイロ……。
―――と、その時、ピルルル、という電子音に思考は中断された。すっかり自分の世界に入っていたのでビクッとして危うくヴァイオリンを落としてしまうところだった。
見ると、部屋に備え付けのインターフォンが赤いランプを点滅させている。こんな夜中に、何事だろう？……首を傾げながら、僕は通話口に出た。「何かあったのかい？」
『カ、カトルさま…』
聞こえてきたのは、ラシード――今は僕の仕事をいろいろと補佐してくれている――の声。いつも冷静な彼らしくない、かなり慌てた……というより、狼狽した様子だ。周囲のざわめきまで聞こえてくる。……叫び声？何か余程の事があったのかと、僕は気を引き締め、もう一度尋ねた。
「ラシード、何があったの？」
『カ、カ、カ、カトルさま』
かなりショックを受けているようだ。……一体何が？
「ラシード、落ち着いて」
『ヒ、ヒイロ・ユイが』――――――…え！？
「ヒイロがどうしたのッ！？」
ラシードを落ち着かせるつもりが、その名を聞いた途端、自分のほうが慌ててしまう。
『ヒヒヒヒイロが』
言葉も出てこないほどのラシードのうろたえよう。悪い想像ばかりが膨らんでしまう。
「まさかヒイロの身に何か―――…」
言いかけた時、ばんっ！
と音を立てて、ノックも無しに部屋の扉が開いた。驚いて振り向くと、
「カトル！」
僕の名を叫ぶようにして入ってきた人物は―――「ヒイロ！？」
訳が判らず驚きのあまり身動きが取れない僕に向かって、彼は一直線に進んでくるといきなりひしっと僕を抱き締めた―――ええッ！？
｢カトル、会いたかった！！」
「ひひひひひいろ！？」
一体何事――――――ッ！？
かあっと頭に血が上る。混乱。思考がついていかない…ヒイロは腕を解くと、今度は僕の顔をじっと見つめ―――にっこりと笑った（！？）
｢カトル」
「は、はいっ？」
そして彼はおもむろに僕の前に跪くと、僕の右手を取り、騎士が姫にするように恭しく口付けした(！？)｢カトル、愛している｣
｢―――――――…ッ！？」イッタイ、ナニガオコッテイルンダロウ………？？？
あまりにも現実離れした展開に付いて行けず、茫然自失状態の僕にかまわず、事態は更に進む。
「俺の全てはお前のものだ…」
情熱的な言葉を囁きながら、ヒイロの顔が近付いてくる。
もしかしてこのままだと、キスされるんじゃ……ええええッ！？
｢カトル…」
どどどどどどうしよう。カチカチに固まる僕の目の前に、ヒイロがさらに迫ってきて、唇が触れようとした寸前―――ばこーん！
と景気のいい音がして、目の前からヒイロがいなくなった。
「ヒ、ヒイロ？」
どうやら誰かに張り飛ばされたらしいヒイロは、床の上に転がっていた。慌てて駆け寄ろうとした僕の腕を、その『誰か』がグイと引っ張った。
｢そんな奴の心配をすることはない」
背後から聞こえてきたその声は―――…｢ヒイロ！？」
慌てて振り向くと、そこにはヒイロが立っていた。！？！？！？
もう一人の彼は、優しく微笑む(！？)と、穏やかな口調でこう言った。
｢もう大丈夫だ、カトル。驚かせてしまってすまなかったな」……ああ、これは夢だ。
現実であるはずがない……｢カトル？」
頭の中がぐるぐる回ってる……
｢カトル？ しっかりしろ、カトル、カ…ル……」
だんだんと声が遠ざかってゆき――そして目の前が真っ暗になった。
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